3月11日に発生した東日本大震災は、甚大な人的・経済的被害をもたらし、日を追うごとに様々な問題が表面化、事態の終息の見通しは困難と思わざるを得ない。
そんな中で「日経新聞3月28日朝刊」に“企業の「震災法務」検証”という記事が目にとまった。そこには「災害時でも、企業は従業員や取引先に対して『安全配慮義務』がある」ということが記述されていた。
地震時、日本マイクロソフトは、セミナー顧客約300人を本社食堂にとどまってもらう方針をすぐに館内放送で顧客と従業員に知らせたという。オフィスには勤務者2500人分を超える水と災害キットが備えてあるとのことで、さすがである。
地震で取引先に対する債務不履行による損害賠償責任も、企業が直面するリスクだそうだ。債務不履行に関して不可抗力と主張することもできるが、免責されるかどうかは「災害当時の科学的知見に基づいて予見できる範囲の被害回避策をとっていたかどうか」が判断基準となるそうだ。
今回のことでまっさきに思い起こしたことがある。
それは以前からお付き合いのある会社のこと。この会社の社長は、戦争中に和歌山県で大きな地震に遭遇した経験があり、地震の怖さをよくご存じの方である。
社長のご自宅の耐震補強工事を行ったのが縁で、5年ほど前に会社内の地震対策についてもご相談をいただいた。本社オフィス(都心ビル高層階)を皮切りに、その後都内の工場の地震対策調査・工事を依頼され、機械・機器、備品、建物設備など1300点について、地震時危険な状況や業務に支障が発生しないようにという観点からランク付けを行い、どのランクまで対策工事を行うかの方針案を作成・検討し、工事を行った。さらに昨年には、前回の対策工事から数年経ち、機器などの移動や追加等もあるとのことで、本社および工場にて再度調査を行い、12月末までに2度目の地震対策工事を終了した。この工事では1回目より細かい部分まで(特に高層階にある本社オフィスについては長周期地震を視野に入れ)転倒・移動防止策を講じることとなった。
2月下旬に東北地方太平洋沖地震の予兆とも思える宮城県沖地震の際、かなり長く揺れたので本社の担当者に電話確認するも、全く被害なしということで安堵した矢先の、あの巨大地震であった。再び電話すると「工事しといてよかった」の一言をいただいた。被害は対策工事ができなかった移動式書架からの書籍落下と帽子掛けの転倒程度で、他はすべて問題なし、とのことであった。そして次の日の早朝には社長から電話があり、工場の被害状況について至急連絡するようにとの指示があった。
かのドラッカー氏は“戦略計画について「将来どうするか」は決められない。未来は予測できないからだ。だが見えない将来に対し「今何をすべきか」は分析をもとに決断できる。”と指摘している。わたしの知るこの会社の社長はドラッカー氏の「マネジメント」を読んだことがあるのかどうかはわからない(多分読んでないと思われる)が、天才的な事業家は“こんなことは当たり前”とでも言うように、地震後の次の対策に頭は向いているようであった。
まさにリスクへの対策は戦略計画の原点かと知らされた次第である。